「“その人らしさ”を守る認知症ケア──私たちが現場で大切にしていること」

「“その人らしさ”を守る認知症ケア──私たちが現場で大切にしていること」
25/4/22 3:00
「認知症の方への対応って、どうすればいいんですか?」
家族からそう尋ねられることは、現場では日常的です。
「最近、同じことを何度も言うようになってきた」 「急に怒りっぽくなった気がする」 「一緒にいる家族の方がつらい」
認知症は「病気」ではありますが、それ以上に「関係性のケア」がとても重要になります。
この記事では、私たちがデイサービスの現場で実践している「認知症の方への関わり方」「大切にしている考え方」について、できるだけわかりやすくお伝えします。
【1】「正す」のではなく「寄り添う」
認知症の方と関わるうえで、最初に大切なのは、
“本人の世界を否定しない”
ということです。
たとえば、利用者さんが「今日は学校があるから帰らなきゃ」と言ったとき、
「もうそんな歳じゃないですよ」「今日はデイに来てるんです」 と“正す”ことが正解とは限りません。
私たちはこう答えます。
「そうなんですね、今日は何の授業があるんですか?」
そうすると、表情が和らぎ、思い出の話をしてくださることが多いのです。
記憶が曖昧になっても、その人の“感情”や“世界観”には意味がある。
だからこそ、頭ではなく「心」に寄り添うケアを私たちは心がけています。
【2】「できないこと」より「できること」に目を向ける
認知症が進行すると、「以前はできていたのにできないこと」が増えていきます。
でも、私たちは「できないこと」ではなく、
“まだできること”に光を当てる
ことを大事にしています。
たとえば、おしぼりをたたむ、洗濯物を干す、歌を歌う、絵を描く——
その人の「手が覚えていること」「心が覚えていること」を見つけていくと、 本人も表情が変わり、自信を取り戻していくのです。
誰かに必要とされていると感じる瞬間が、人を元気にします。
【3】「役割」があると、人は元気になる
「あなたがいてくれると助かる」
この言葉が、どれだけ人の心を動かすか。
認知症の方も、周囲から“役割”を与えられることで、自信や自尊心を持つことができます。
私たちは、日々の中で小さな役割を用意します。
「今日のお花の水やり、お願いしていいですか?」 「みんなにお茶を配ってもらえますか?」
そうした関わりが、「自分はここにいていいんだ」という安心感につながります。
【4】スタッフ間の“チームケア”が最も重要
認知症ケアは、誰かひとりががんばっても続きません。
私たちの施設では、スタッフ全員が「同じ目線・共通のケア観」を持つことを徹底しています。
毎日のミーティングで気づきを共有し、記録をこまめに残し、 「昨日はこうだったけど、今日はどうだったか?」を話し合いながらケアを進めています。
また、認知症ケア専門士の資格保有者が中心となり、定期的な研修も行っています。
専門性を高め続けることは、利用者様の“その人らしさ”を守ることにつながるからです。
【5】ご家族との連携も、ケアの一部
私たちは、利用者様ご本人だけでなく、ご家族の「安心」もケアの一部と考えています。
「お母さま、今日は午前中に少し不安定でしたが、午後には笑顔で歌っていました」
「先週と比べて、今日は椅子から立ち上がる動作がしっかりされていました」
そうした日々の細かな変化を、丁寧にご家族にお伝えすること。
それが、離れていても「うちの親、大丈夫そうだな」と思ってもらえる支えになります。
【最後に】
認知症の方と接するとき、戸惑いや不安を感じるのは、ご家族にとっても当たり前のことです。
でも、私たちが現場で見ているのは、「認知症になっても、笑って過ごせる日々がある」という事実です。
その人らしさを失わせないケア。 その日その日を穏やかに、尊厳を持って過ごせる場所。
それが、私たちが目指している認知症ケアのかたちです。
ぜひ一度、現場の空気を感じに来てください。 「こんなふうに関わるんだ」 ときっと感じていただけると思います。